年会誌『詩の国秋田 : Akita – the Land of Poetry 』第4号のEパンフレットによる発刊にあたり、9月4日から「日露俳句コンテスト」の入選句シリーズを掲載しております。
今回は学生部門の1回目です。
日露俳句コンテスト
学生部門(1)
内村恭子選
特選
波が波追いかけて逢う夏の崖
京都大学
(スウェーデンストックホルム大学留学中)
黒岩徳将
Волна за волной
Спешит на свидание
С летним берегом
A wave heads
for another wave
Meeting a cliff in the summer
(特選) 一番だから目を引いたのかもしれないと何度も全体を読み直したのですが、やはり良い句です。先に来て待つ方の待ちきれない気持ちと、会いにゆく方のはやる気持ちのどちらも「波が波追いかけて」という表現に託されており、清冽な印象を残す句です。三島由紀夫の「潮騒」を俳句にするとこのようになるのかもしれません。
入選
切り出せぬ海の波間に陽の陰る 国際教養大学 三沢萌夏
Не могу начать разговор
Среди волн
Мрачнеет солнце
hesitating to speak –
among sea waves
the sun becomes dim
海を「切り出」すという斬新な発想に脱帽です。波が高いと確かに海が固体のように見える時があります。
助手席に君が残した日焼け止め 国際教養大学大学院 安斎佑理
На сиденье в машине
Ты оставил
Крем от загара
on the seat next to the driver
you left behind
your sunscreen
物に気持ちを託す、という俳句の基本に忠実で、しかも爽やかな印象の句です。
故郷からカモメが運ぶ友の声 国際教養大学大学院 後藤歩
Из родного дома
Чайки приносят
Голоса друзей
from home town
sea gulls carrying
the voices of friends
遠くに行ってしまった友人のことでしょうか。ひとりで港に佇む様子が見えます。
夏の海あかしろきいろ肌の色 国際教養大学大学院 神田義太
Летнее море
Красное, белое и желтое
Это цвет кожи
summer sea
red, white, and yellow
the colors of skins
単純な色の取り合わせが夏の鮮やかな海を上手く表現し、景が良く見えます。
夜の海静かな風と星一つ 秋田工業高等専門学校 根田素
Ночное море
Легкий ветерок и
Одинокая звезда
in the night sea
the still wind and
the only star
切り取った一枚の絵のような美しい句です。
常夏の海に漂う心太 秋田工業高等専門学校 塚本勇介
Вечное лето
В море дрейфует
Токоротен
in the everlasting summer
drifting in the sea
tokoroten *
tokoroten * : a summer snack like transparent noodles made from seaweed called tengusa
токоротен – это летнее лакомство, похоже на лапшу, сделано из водорослей
季重なりではありますが、なんともシュールな光景が面白く採りました。
背中から五月のひびき潮の香 秋田工業高等専門学校 佐々木高一
Из-за моей спины
Майские звуки
И пахнет прибой
from behind my back
the May sound and
the fragrance of the tide
「背中から」がとても効いています。これは「五月」が動かないと思います。
ラムネ越し魚の気分で海を見る 秋田工業高等専門学校 藤原史奈
Сквозь лимонад
Как рыба
Смотрю на море
over the lemon soda
feeling like a fish
I see the sea
ラムネ越しという表現が、いかにも夏休み気分を出していて良いです。
夕暮れに染まるあなたに光る海 秋田工業高等専門学校 湊宏弥
Сумерки
Окрасили тебя
Светящееся море
twilight
dyeing you –
the shining sea
夕暮れ時の太陽は世界の色を全て変えます。光る海を見ているようで、実は見ているのはもちろん「あなた」。若々しい恋の句です。
海開き波間に見ゆる赤い顔 秋田工業高等専門学校 佐々木開
Открыт пляжный сезон
Виднеется среди волн
Красное лицо
the beginning of the swimming season
seen among waves
red faces
既にすっかり日焼けしているのでしょうか。海開きの解放感を「顔」に焦点を当てて表現したところが上手いです。
Russian translations by Olga Sumarokova ロシア語訳 スマローコヴァ オリガ
English translations by Hidenori Hiruta 英訳 蛭田秀法
The next posting ‘『詩の国秋田』第4号「日露俳句コンテスト」学生部門(2)矢野玲奈選’ appears on September 11.
―蛭田 秀法(Hidenori Hiruta)