年会誌『詩の国秋田 : Akita – the Land of Poetry 』第4号のEパンフレットによる発刊にあたり、9月4日から「日露俳句コンテスト」の入選句シリーズを掲載しております。
今回は一般の部の9回目です。
日露俳句コンテスト
一般の部(9)
蛭田秀法選(1)
特選
Сибирская зима
Накрыла белой скатертью залив
Вдали – крошки-рыбаки
СУМАРОКОВА Ольга(スマロコヴァ オリガ)
SUMAROKOVA Olga
シベリアの冬
白いテーブルクロスで湾を覆う
遠くに点々と釣師
(日本・ウラジオストク協会副会長鈴木修訳)
Siberian winter
Served the white table cloth over gulf
The fishermen like drops on it
コンテストの評価基準は次の4点であった。
1 自然との共生をとらえている。
2 テーマである「海」を自分の目でしっかり見すえて写生。
自分が発見したことを自分の言葉で表現している。
3 比喩を上手に使っている。
4 イメージをふくらませる表現になっている。
具体的には、テーマである「海」に対して作者がどのように感じているかに着目。作者が海を写生し、心の中でどのようにとらえているか、つまり、ある瞬間自分の感覚や感性にふれたことを自分の言葉で自分なりに表現していることを重視した。
9月22日、日露俳句大会・秋田大会が秋田市で開催された。
スマロコヴァ オリガさんの掲句が最優秀賞である露月山人国際賞を受賞した。
氷結の海を通してシベリアの厳しい冬をいかに過ごすか、その一端をとらえ、海面に張り渡る氷を白いテーブルクロスと表現。
一番感動したのは「詩の国秋田」が生んだ漫画の主人公「釣りキチ三平」がイメージとして思い浮かんだことである。
『釣りキチ三平』は1939年10月28日秋田県雄勝郡西成瀬村、現・横手市増田町に生まれた矢口高雄による漫画作品である。それを原作としたアニメ作品もよく知られ、人気がある。
1973年から10年間、『週刊少年マガジン』(講談社)に連載され、当時の看板作品のひとつであると共に、自然派漫画の代表的存在であった。
現在矢口高雄1人による描き下ろし『パーソナルマガジン』の看板作品として『平成版・釣りキチ三平』を連載、創作活動を再開している。
矢口高雄は町の中心部から20km離れた山村に生まれ、自然に囲まれて育つ。この子供時代の生活が、後に漫画の題材となった。
自然の中での生活をテーマにした作品を描く漫画家である。
日露俳句大会・秋田大会の大会集にスマロコヴァ オリガさんのロシア語による句から「釣りキチ三平」を連想しながら、イメージをふくらませて作った短い三行詩を紹介した。
シベリアの冬
白布で湾を隠した
あめ玉好きの釣師 (蛭田秀法・イメージ訳)
9月23日、この三行詩は秋田のニュースとして秋田魁新報社による さきがけon The Web で 「日ロの俳句愛好者の交流 秋田市、コンテスト表彰も」 というタイトルで世界中に発信された。
9月26日、日本・ウラジオストク協会副会長鈴木修氏から三行詩に対するコメントが届いた。
「解釈は“シベリアの冬は魔法を使って白い布を振って湾を隠しました。漁師たちはあめ玉を愛しながら釣りをします”。複数の漁師たちがシベリアの冬に魔法をかけられて、一斉にあめ玉をしゃぶりながら釣りをする。すごいお伽の世界だと驚きました。」
さらに、ロシア語による原作を紹介したところ、ロシアの読者にはイメージ訳ではなく、詩的な直訳が望ましいということであった。
訳例と解説もいただくことになった。
シベリアの冬
白いテーブルクロスで湾を覆う
遠くに点々と釣師
「作者が描こうとしたのは、ウラジオストク市の西に広がるアムール湾の春先ではないかと思います。対岸は中国に達するので見えませんから、この時期の釣り人というのは、氷に穴をあけてコールシュカ(北海道でも獲れてキュウリ魚と呼んでいます)という小魚を釣る人々です。」
「作者の本当の句も味わい深く、特にウラジオストクで4年間暮らした私にはとても魅力のある句です。」
最後に、ロシア語による俳句の将来と可能性について激励のお言葉をいただくことになった。
「ロシア語は語尾変化が多く、韻の踏みやすい言語ですから、先生のご指導で新しい句の世界がウラジオストクに生まれるとすばらしいと思います。それは相互に相手の国の言葉を学ぶための楽しい、新しい手段にもなるような気がします。」
9月29日、ウラジオストク日本センターで開催された日露俳句大会・ウラジオストク大会ではロシアの参加者に対して鈴木修氏の訳も紹介された。
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―蛭田 秀法(Hidenori Hiruta)